あるWEBサイトを見た時のこと。

今までにお客様に提供してきた数々の商品の写真が、10文字程度のタイトルと共に掲載されていた。

きれいな写真が目に入って来るが、私が最初に思った感想はこうだった。

 もったいない・・・ 

  • お客様に伝えたいコンセプト。
  • 商品にこめた思い。
  • 商品が出来上がるまでに重ねた苦労。

そういった部分の記載がまったくないのだ。
実はその部分にこそ人を惹きつける魅力が眠っている。

当たり前の中に眠る「先制のマーケティング」

<シュリッツ・ビールの事例>

1920年代初頭、10社ほどの醸造会社が精力的に競い合っていた。シュリッツの業績は今一つで、市場で第8位に甘んじていた。

どの醸造会社の広告も、基本的には同じメッセージ・・・ 「私たちのビールは純度が高いものです」 だった。

ところが、これがどういう意味なのかを説明する会社はなかった。ただ、「純度が高い」と言い続けていたのである。

シュリッツは売上を改善すべく、一人のマーケティングコンサルタントを雇った。そのコンサルタントは、醸造所を見学し、シュリッツではどうやってビールを作っているのか聞いた。そして、彼はその内容に実に感銘を受けた。

  • 最高のビールを作るのに最適なミネラルを含有した水を得るために深さ1,500mの井戸を2つも彫っていた。
  • 一番豊かな味と口当たりを生み出す醸造酵母菌の元菌を見つけ、それを開発するのに、5年以上かけて1,623回の実験をしていた。
  • ビールの醸造に使う前の水の蒸留に、熱して再び冷却して液化する作業を3度も繰り返していた。
  • ビン詰めでは、 高温の蒸気にあてて、ビールの味に影響を与えそうなバクテリアや微生物を殺菌していた。
  • ビン詰めして送り出す前に、純粋で豊かな味を確認するため、一度の醸造ごとに必ずテイスティングをしていた。

コンサルタントは、その醸造過程に圧倒され、シュリッツの経営陣に提言した。

「消費者にビールを醸造する際の驚くべき工程を知らせるべきです」

それに対して、シュリッツの経営陣の答えはこうだった。

「なぜ、そんなことをする必要が?どこの醸造会社もうちと同じことをやっているのに」

先制のマーケティングの概念を理解していたこのマーケティングコンサルタントは、反論した。

「しかし、ビール業界で、消費者にそれを知らせた人は誰もいません。何かをやって、最初にその話をしたり、理由や成り行きを説明する者が、そのときから、他の者にその市場で差をつけ、優位に立つものです」

こうして、シュリッツは、自社のビールがどうやって作られているかを業界初で宣伝した。

消費者には、シュリッツが見せた醸造やビン詰めの工程が他社のものとは格段に違う、はるかに価値のあるものに見えた。その結果、どのビール会社よりもシュリッツが魅力的な存在に思えるようになった。

シュリッツは、こうして先制のマーケティングを始め、半年で、業界で売上8位から見事1位になった。

ハイパワー・マーケティング
著 ジェイ・エイブラハム

「先制のマーケティング」を自分のビジネスにも取り入れよう

上記のシュリッツ・ビールの例では、業界が当たり前だと思っている常識にメスを入れた。

では冒頭のWEBページの例ではどうすればいいだろうか。

他社が、商品に込める思いやコンセプト、重ねた苦労などを説明していないなら、その部分を消費者に向けて宣伝するだけでも「先制のマーケティング」ができる。

例え他社が同じ事をやっていたとしても、自社の商品・サービスで「先制のマーケティング」ができる部分は無いだろうか?

あなたが提供している商品・サービスがどのようにして出来上がり、お客様に提供するようになったのか見直してみよう。自分の中ではあまりに当たり前になっていることでも、消費者にとっては全く未知の部分、伝えなければ気付かないこともある。

「そんな事は当たり前。誰でも知っているし、やっている」という「思い込み」をぶっ壊してみよう。

そんな部分にこそ「先制のマーケティング」が隠れている。